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そけいヘルニア知恵袋

鼠径ヘルニア(脱腸)の症状と対策について

2023.06.27

こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。今日は鼠経ヘルニアの症状と普段の生活でできる対策を解説します。

鼠径ヘルニア(脱腸とも呼ばれます)は、お腹の中にある内臓を守るための壁が一部弱くなって袋状に膨らみ、鼠径部の皮膚の下まで腸管など中身が飛び出してくる病気です。中高年の男性に比較的多いですが、誰もが発症する可能性があります。手術以外の治療法では治らないため、気になる症状がある方は早めに医療機関の受診をおすすめします。

鼠径ヘルニアの典型的な症状は鼠径部の膨らみ

鼠径部、足の付け根に膨らみやしこりが現れることが鼠径ヘルニアの初期症状です。入浴中などに鼠径部の膨らみに気づく場合が多いようです。膨らみの大きさには個人差があり、ピンポン球程度のこともあれば鶏の卵のサイズになる場合もあります。

立ち上がったときや腹部に力を入れると現れる膨らみは、手で押し込んだり、横になったりすると、お腹の中に引っ込んで見えなくなります。

最初の頃は膨らみも小さく、違和感はあっても痛みまで感じることは少ないでしょう。手で押し込んで膨らみが消えれば「治った」と感じられるかもしれません。しかし、これはあくまでも一時的なものです。袋のような形状になったお腹の中の壁はそのままにしても戻ることはありませんので、腸や脂肪組織は何度も飛び出してきます。

鼠径ヘルニアの原因

先ほど「鼠経ヘルニアはお腹の中の壁が弱くなって袋状に飛び出したもの」と説明しました。では、どういった状況が鼠径ヘルニアの原因になるのでしょうか?

答えはお腹の中に圧力がかかる状況です。具体的には立ち仕事が多い、重いものをもって腹部に圧力がかかるなどのほか、肥満や喫煙なども鼠径ヘルニアの原因になると言われています。

嵌頓(かんとん)に注意

鼠径ヘルニアの発症から時間が経つと、徐々に膨らみのサイズが大きくなる傾向にあります。やがて腸がはまり込むと元に戻らないだけでなく、血流障害を起こし激しい痛みや吐き気などを伴います。この状態は嵌頓(かんとん)と呼ばれ、生命にも影響しかねない危険な状態です。

鼠径ヘルニアの患者さんの多くは当院での日帰り手術の適応となりますが、嵌頓になると緊急手術で腸管の切除が必要な場合も少なくありません。その際はもちろん入院が必要で回復にも時間がかかります。

こうしたことからも、鼠径ヘルニアの治療には早めの受診が有効です。当院ではCT検査を用いて正確に診断し、手術を含めた治療の方針を決めさせていただきます。

鼠径ヘルニアの対策と予防

鼠径ヘルニアの予防には、お腹に繰り返し力を込める機会を減らすことが大切です。

  • 重い荷物を持たないようにする
  • 立ち仕事を減らす
  • 肥満や便秘を解消する
  • 食物繊維を多く摂取する
  • 適度な運動を心がける
  • 禁煙する

などは、鼠径ヘルニアの予防に効果があると考えられます。

ちなみに、すでに発症した鼠径ヘルニアに対して、筋肉を鍛えても治療の効果はありません。鼠径ヘルニアが起こっている部分は筋肉ではなく筋膜だからです。発症前の予防には一定の効果があると考えられていますが、発症後のトレーニングは鼠径ヘルニアを悪化させる原因になるので注意が必要です。

特にお腹に圧力のかかる行為を避けることは、発症した鼠径ヘルニアの悪化を防ぐ対策として重要です。しかし仕事内容によっては、重い荷物を運んだり、長時間の立ちっぱなししたりということもやむを得ないと思います。

また鼠径ヘルニアは、加齢にともなって誰もがなり得る病気でもあります。したがって「こうすれば完全に予防できる」という対策はありません。鼠径ヘルニアの自覚症状があれば、早期受診、早期治療を心がけてください。

多くの方が日帰り手術を受けて完治し、すぐに仕事にも復帰しています。当院で行う腹腔鏡手術なら再発する確率も1%以下です。

鼠径ヘルニアの症状に関するQ&A

最後に鼠径ヘルニアの治療に関して、患者さんから多く寄せられる質問に対して回答いたします。

Q. 鼠径ヘルニアを手術以外で治療する方法はありますか?

残念ながら、手術以外では治療できません。自然に治ることもありません。ただし現在は多くの方が痛みの少ない日帰り手術で治療できています。また鼠径ヘルニアの治療は保険診療の対象です。そのため、高額療養費制度により、自己負担額も一定金額以内に抑えられます。

Q. ヘルニアバンド(ベルト)は対策として有効ですか?

ヘルニアバンドはヘルニアベルト、脱腸帯などとも呼ばれ、通販サイトなどで簡単に購入できます。ヘルニアバンドは、鼠径部から腸が飛び出ないよう抑え込むために着用されるものです。しかし、物理的に空いた穴が勝手に塞がることはないので、鼠径ヘルニアが治るわけではありません。

またヘルニアバンドを使用して一時的に症状を緩和したため受診が遅れたケースや長期間圧迫されたことで組織が固くなってしまい手術の妨げになったケースも報告されています。

したがって、当院ではヘルニアバンドの使用はおすすめしていません

Q. 鼠径ヘルニアの膨らみがどれくらいの大きさになったら手術すべきですか?

鼠径ヘルニアにはその成因による分類はありますが、大きさによる分類はありません。がんのように大きさによって「ステージ」を表す病気とは異なります。小さな鼠径ヘルニアでも、腸がはさまって戻らなくなる嵌頓(かんとん)を起こすことはあります。放置するメリットはないので、足の付け根に膨らみが現れたら、その大きさによらず早めに受診されることをおすすめします。

この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)

2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。

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