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嵌頓(かんとん)とは?発症確率や痛みを専門医が解説

2023.11.24

こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。

鼠径ヘルニアを発症した後に注意しなければならないのは、嵌頓(かんとん)のリスクです。発症初期は足の付け根にできるふくらみはそれほど大きくなく、痛みもありません。しかし放置を続けると、ふくらみのサイズが大きくなり、痛みを伴うようになります。このとき嵌頓が起きると、緊急手術が必要となるケースも少なくありません。

痛みが強くなるだけでなく、ときには生命にも危険が及びかねないため、嵌頓が起こる前に早めの治療を心がけることが大切です。

この記事では嵌頓のメカニズムと症状、具体的なリスクについてくわしく解説します。

鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)とは何か

本来、鼠径ヘルニアはそれほど恐ろしい病気ではありません。薬による治療や自然回復はできませんが、手術によって完治します。最近は再発リスクも1%以下といわれており、一度治療すれば再び悩まされる可能性は低いでしょう。

しかし鼠径ヘルニアを放置し、鼠径部のふくらみや痛みが大きくなり“嵌頓(かんとん)”が起こると話は別です。嵌頓とは、鼠径部で皮膚の下まで飛び出した腸が穴にはさまり、戻らなくなる状態を指します。腸は穴の出口で締め付けられ、血流が途絶えてやがて腐ってしまうのです。

嵌頓が起こった場合には、緊急手術が必要となるケースもあり、早めの処置が必要です。

嵌頓によるリスク

嵌頓がなぜ危険なのか、生命に関わる恐れまである理由を解説します。

嵌頓が起こる確率は発症後1~2年で1%と高くないものの、前触れなく突然に起こる点に注意が必要です。特に違和感があるときに重い荷物をもったり、くしゃみや咳をしたり、腹圧がかかると、腸管が押し込まれて嵌頓のリスクは高まると考えられています。

横になったときにふくらみが元に戻るようならこの時点では、嵌頓の可能性は低いでしょう。しかし鼠径ヘルニアの放置で嵌頓の危険性は高まります。

第1段階:腸閉塞(ちょうへいそく)

嵌頓は、お腹の内側にできた筋膜の穴に腸がはまってしまう状態です。はまった部分の腸が締め付けられ、食べ物や消化液などが詰まることを「腸閉塞」といいます。

腸閉塞によって、食欲低下やお腹の張りが起こり、吐き気をもよおしたり、嘔吐したりなどの症状が起こります。

第2段階:腸が腐って壊死(えし)する

嵌頓になって締め付けられた腸には、血が行き届かなくなり、やがて流れた血が戻ってこないことで、細胞組織が腐って死んでしまいます。この状態を壊死といい、健康な組織に戻ることはありません。

壊死した組織をそのまま放置すると、有毒物質が体内に回って敗血症の原因となる可能性があります。必ず手術によって組織を除去しなければなりません。

第3段階:腹膜炎を起こし生命に危険がおよぶ可能性

腸管に穴が開くと、腸の内容物がお腹の中に広がってしまい、炎症を引き起こします。嵌頓がきっかけとなって起こる急性腹膜炎になると、急激な腹痛に襲われ、24時間以上放置するのはかなり危険です。

激しい腹痛、吐き気や嘔吐、全身の倦怠感や食欲不振を伴うケースもあります。

嵌頓を直そうとして、ご自身の手でふくらみを押し込むことは、腸に穴が開く原因となり腹膜炎を招く可能性があるためひかえてください。

腹膜炎が悪化すると敗血症や多臓器不全となり、命の危険にさらされます。これは細菌が全身に広がるためで、人工呼吸器や人工透析などの集中治療が欠かせない状態になります。

鼠径ヘルニアを放置した結果、嵌頓を引き起こしさらに症状が進行すると緊急手術が必要になり、対応が遅れると生命がおびやかされる危険もあります。

鼠径ヘルニアは早めに診察・治療を受けましょう

鼠径ヘルニアを発症した患者さんには、そのまま放置される方が少なくありません。

お話しを聞くと
「痛みがなかったから問題ないと思った」
「デリケートな部位なので、恥ずかしくて受診したくなかった」という声が多いようです。

ご説明したように、ほとんどの鼠径ヘルニアは日帰り手術で治療が可能です。放置しても自然に治ることはなく、むしろ嵌頓のリスクが高まってしまうので、早期に診察を受けて治療されることをおすすめします。

Q. 鼠径ヘルニアの嵌頓はだれでも起こる可能性がありますか?

鼠径ヘルニアを発症した場合、確率は高くないもののだれでも嵌頓になる可能性があります。嵌頓になると、緊急手術が必要なケースも考えられるため早めの治療が必要です。

Q. 嵌頓になったときの対処法は?

嵌頓の程度によっては、緊急手術が必要となります。鼠径ヘルニアを放置していると、嵌頓になる可能性が高まるため、早めの対処が必要です。

なお腹膜炎になると手術と長期の入院治療が必要となり、死に至る可能性もあるので、鼠径部のふくらみや痛み、違和感があれば放置せずに医療機関を受診してください。

Q. 鼠径ヘルニアの嵌頓を自力で治す方法は?

鼠径ヘルニアでできるふくらみは腸の一部が飛び出したものですが、軽症のうちは横になって手で押し込めば元に戻ります。しかし嵌頓が生じ、腸管が穴にはまり込んだ状態で、自力で無理に押し込もうとするのは危険です。早急に医療機関を受診しましょう。

この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)

2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。

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