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そけいヘルニア知恵袋

鼠径ヘルニア手術で2つの麻酔を併用する理由

2024.01.23

こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。

私は麻酔科専門医として、日帰り手術という選択肢を多くの患者さんに知っていただきたいと考えています。現代の進歩した医療技術をもってすれば、鼠径ヘルニアのように比較的短時間で行う手術は、日帰り手術が可能です。

麻酔科医は、痛みをコントロールする専門家です。全身麻酔により手術中は痛みを感じることなく、さらに手術後の痛みをできるだけ軽減する工夫を行っています。

腹腔鏡手術は全身麻酔が必須

現在、鼠径ヘルニアの治療では、腹腔鏡手術が主流となりつつあります。これまでに行われていた鼠径部を切開する方法に比べて手術によるキズが小さいため、患者さんにかかる負担も減らせることが背景にあります。

腹腔鏡手術では、全身麻酔が欠かせません。腹腔鏡は、お腹の中にカメラを入れて行う手術であり、内部を見やすくする目的でお腹の内部を炭酸ガス(CO2)でふくらませます。これによって安全に手術を行うことができるのです。

全身麻酔は患者さんの意識をなくして眠らせる方法なので、手術中に痛みを感じることはありません。全身麻酔を使うと自力での呼吸が止まってしまうため、 人工的な呼吸補助が必要です。

全身麻酔と局所麻酔を併用する理由

当院で行う手術では全身麻酔に加えて、局所麻酔薬による神経ブロックを併用しています。

2種類の麻酔を組み合わせることで、トータルの麻酔薬の投与量を減らしつつ、痛みをおさえる効果を高めることができます。

局所麻酔の目的

局所麻酔は手術が終わったあとの痛みを和らげるために行うものです。神経ブロックといって、お腹の両側の計4か所に局所麻酔薬を注入します。

身体の一部にのみ麻酔を施すもので、薬剤の量によって効果が変わります。効き目にも個人差が表れます。

手術をした当日の夜くらいまでは神経ブロックによる鎮痛効果が持続します。手術後の痛みが強く出やすい時間帯をブロック注射の効果で乗り切れるのがメリットです。

全身麻酔の目的

全身麻酔には、3つの役割があります。意識をなくす鎮静作用、痛みをおさえる鎮痛作用、そして筋肉をゆるめる筋弛緩作用です。局所麻酔は、このうちの鎮痛効果をサポートします。

麻酔科医が全身管理を行うため、手術中に目覚めたり、麻酔が切れて痛みを感じたりすることはありません。手術が終わってから5分程度で覚醒するように、麻酔の量をコントロールしています。また、覚醒直前には痛み止めや吐き気止めの薬を混ぜたり、投与した麻酔の効果を打ち消す薬(リバースといいます)を投与したりしています。

そして覚醒されている状態を確認してから、バイタルサインが保たれているか、痛みや嘔気がないかを評価し、必要なら薬剤を投与して対応します。

適切な管理によって、手術後1時間は院内でお休みいただけば、ご自分で歩いて帰宅できるのです。

全身麻酔のリスクについて

心臓や肺などに重大な疾患がある方には、全身麻酔を勧められない可能性があります。

たとえば高血圧、脂質異常症、糖尿病などの持病がある方は、麻酔によるリスクが高くなると言われています。

ただし病気が落ち着いている場合には、術前検査の結果によっては「全身麻酔を行っても問題ない」と診断される可能性もあるので、まずは医師に相談してください。

また麻酔をかけると嘔吐しやすくなるため、手術前は胃の中を空っぽにする必要があります。食べ物が気管や肺に入ると窒息や誤嚥性肺炎の原因になるため大変危険です。手術当日は食事を抜き、水分は当日の決められた時間以降は摂取しないようにしてください。

鼠径ヘルニアの手術後の痛みには個人差がある

ここまで説明したように、全身麻酔を用いれば手術中に痛みを感じることはなく、局所麻酔によって手術後の痛みもおさえられます。ただ、局所麻酔の効き目が切れた後は、個人差はあるものの完全に痛みをなくすのは難しいでしょう。

手術後の痛みも極力減らせるように、当院では痛み止めを処方します。手術から5日間は服用していただき、それでも収まらない強い痛みの場合は、別の痛み止めを追加で飲んでいただいています。

未知の手術および麻酔のことを怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし麻酔科専門医が行う全身麻酔の安全性は高く、できるだけ痛みが少なくなるように対策されていることを理解いただけたら幸いです。

Q. 麻酔が効かない人もいますか?

いいえ、全身麻酔はすべての人に効果が表れます。点滴から麻酔薬を投与することですぐに意識がなくなります。 ただしブロック注射のような局所麻酔は、効き目が表れにくいケースもあります。

Q. 手術中に目が覚める恐れはありませんか?

手術中の全身麻酔は、常に薬を投与し続けています。異変がないか、麻酔科医が常にチェックしており、麻酔薬の投与をやめない限り、途中で目覚める可能性はありません。手術終了に向けて麻酔薬を徐々に量を減らしたり、リバースを投与したりすることで、手術が終わったタイミングで起こします。

Q. 全身麻酔が受けられない人はどんな人?

心臓や肺などに負担がかかりやすい全身麻酔は、糖尿病や高血圧、心疾患など持病がある人にはリスクが高いとされます。ただし薬を飲むなどで状態がおちついている方であれば、多くは日帰りにて対応可能です。

この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)

2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。

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