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鼠径ヘルニアの発症率とリスク~肥満は影響する?~
2024.07.26
こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。
家族や友人など、身近な人が鼠径ヘルニアと診断された場合、自分も発症するのではないかと心配になりますよね。
結論からいうと、鼠径ヘルニアを発症する割合は、生涯を通して男性が27%ほど、女性が3%ほどといわれています(※)。このことから、女性よりも男性のほうが鼠径ヘルニアの発症率は高く、男性のおよそ3人に1人が生涯を通じて鼠径ヘルニアと診断されているのです。
そこで今回は、鼠径ヘルニアの発症率について、男性のほうが発症率が高い理由や何歳の人が鼠径ヘルニアになりやすいのかなどの疑問について解説します。
※論文参照
●Grosfeld JL. Current concepts in inguinal hernia in infants and children. World J Surg. 1989;13:506-515.
●Glick PL, Boulanger SC. Inguinal hernia and hydrocele. In Grosfeld JL, O’Neil JA Jr, Fonkalsrud EW, et al (eds): Pediatric Surgery, 6th ed, Mosby, Philadelphia, pp1172-1192, 2006.
●Malangoni MA, Rosen MJ. Hernias. In Townsend CM Jr, Beauchamp RD, Evers BM, et al (eds): Sabiston Textbook of Surgery, 18th ed, Saunders, Philadelphia, pp1155-1179, 2008.
鼠径ヘルニアは女性よりも男性のほうが発症率が高い理由
鼠径ヘルニアの症状を訴えて当院に来院する方のデータをみると、来院する方の9割ほどが男性です。
このように男性の鼠径ヘルニアの発症率が極端に高い理由は、男性の鼠径管の構造が女性に比べて弱い構造になっていることが挙げられます。
鼠径管とは、その名の通り、足の付け根部分である「鼠径」にある管のことです。
男性の場合、胎生期の間は精巣がお腹の中にあるのですが、成長するにつれて精巣がお腹から陰嚢(いんのう)に移動します。その際に、使われる道が「鼠径管」になります。そのため、精巣が通る道として女性よりも弱い構造になっているのです。
通常、鼠径管は産まれてくる過程で閉鎖しますが、加齢などによって筋力が低下した状態で腹圧がかかると、閉鎖していた鼠径管が再び開いてしまい脱腸につながります。
このように鼠径管の構造の違いが、男性と女性で鼠径ヘルニアの発症率に差が出てくる理由です。
大人の鼠径ヘルニアは40歳以上の人が発症しやすい
鼠径ヘルニアを発症しやすい年齢は、子供であれば0~5歳(特に乳幼児期に多い)、大人であれば40歳以上です。
子供の場合は、産まれてくる時に鼠径管がうまく閉鎖せず、穴が開きっぱなしの状態であることが原因で「外鼠径ヘルニア」になります。
一方で、40歳を超える大人の場合、腹圧が繰り返しかかることで鼠径部の腹壁を構成する横筋筋膜が弱くなります。
その結果、腸が内側から押し出されて皮膚の下まで飛び出す「内鼠径ヘルニア」になりやすくなるのです。また、「外鼠径ヘルニア」に関しては、20~40歳の男性にみられがちな鼠径ヘルニアです。
女性でいえば、出産を多く経験して瘦せ型である場合、足の付け根の筋膜が弱くなって発症する「大腿ヘルニア」も50歳以上から発症率が高まります(※)。
※論文参照
●Dahlstrand U, Wollert S, Nordin P, Sandblom G, Gunnarsson U. Emergency femoral hernia repair: a study based on a national register. Ann Surg. 2009;249(4):672-676. doi:10.1097/SLA.0b013e31819ed943
●Humes DJ, Radcliffe RS, Camm C, West J. Population-based study of presentation and adverse outcomes after femoral hernia surgery. Br J Surg. 2013;100(13):1827-1832. doi:10.1002/bjs.9336
●Nilsson H, Stylianidis G, Haapamäki M, Nilsson E, Nordin P. Mortality after groin hernia surgery. Ann Surg. 2007;245(4):656-660. doi:10.1097/01.sla.0000251364.32698.4b
鼠径ヘルニアを発症しやすい人の特徴
鼠径ヘルニアは、腹圧がかかることで発症する病気です。そのため、日常的に腹圧がかかっていると、発症するリスクが高まるといえます。
その一つが「肥満」です。肥満である場合、脂肪によって常に腹壁に圧がかかるため、鼠径ヘルニアを発症しやすいです。
また、便秘気味の方や、腹圧がかかりやすい仕事をしている方も、鼠径ヘルニアの発症率は高くなります。
あわせて「鼠径ヘルニアになりやすい人の職業とは?長時間の立ち仕事や重い荷物運びは危険か」の記事もお読みください
鼠径ヘルニアの発症率に関するQ&A
患者さんから多く聞かれる質問に対して回答します。
Q:鼠径ヘルニアの発症率を下げる予防法はある?
鼠径ヘルニアの予防法は、2024年7月時点では確立されていません。
ただし、鼠径ヘルニアのおもな原因は「腹圧」であることから、日常生活で腹圧がかからないように心掛けることで、鼠径ヘルニアの発症率を下げられるといえます。例えば、ダイエットで内臓脂肪を減らしたり、重たい荷物を持ち上げないようにしたりなどです。
あわせて「鼠径ヘルニアの原因となる生活習慣は?予防につながる方法がある」の記事もお読みください
この記事の著者
菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。