鼠径ヘルニア(脱腸)が50代以上の男性に多い理由
2024.03.20
鼠径ヘルニアは中高年の男性に多くみられますが、年齢だけで診断できる病気ではありません。50代以降で気をつけたい理由と、受診の目安を解説します。
なぜ50代以上で増えるのか
加齢で腹壁を支える組織が変化する
お腹の壁は、筋肉や筋膜などの組織で支えられています。年齢を重ねると、こうした組織の強さが変化し、もともと弱い部分から腸や脂肪などが出てきやすくなることがあります。
鼠径部は体の構造上、ヘルニアが起こりやすい場所です。男性では精索が通る構造も関係し、女性より多くみられます。単に腹筋の力が弱いから起こる、というものではありません。
一般的に、鼠径ヘルニアの発症が多いのは50~60代男性と言われていますが、はたして本当なのか、統計データを調べてみました。
厚生労働省は、全国の保険請求情報を集めた「NDBオープンデータ」を公開しています。鼠径ヘルニアはもちろんさまざまな治療や手術を受け、各医療機関から保険請求が行われた情報が詰まったビッグデータで、誰でもアクセスできます。
鼠径ヘルニア手術件数 年齢別分布(推計) 最新のデータ傾向によると、日本全体での年間手術件数は約15万件前後で推移しています。

日本における鼠径ヘルニア(脱腸)の手術件数の年齢別傾向について、最新のNDBオープンデータ(第8回・第9回、2021-2022年度相当)やNCD(National Clinical Database)の年次報告の傾向に基づいた推計グラフを作成しました。
生まれつきの要因(先天性)による小児(0〜9歳)の発症も見られますが、全年齢でみると40代から増加し、70代でピークを迎えることがわかります。40代~70代だけで、全年齢の70%を占めておりリスクが高いことが読み取れます。
このデータは、医療機関で手術を受けたときの年齢なので、厳密には発症からは一定の月日が経過しているものです。発症後に1年以上放置してから手術を受けている方もいると思われますが、発症時の年齢と手術時の年齢を比べても、大きな誤差はないものと考えられます。
75歳以上の高齢者でも、鼠径ヘルニアの手術は安全に行えるという論文は多数発表されていますが、手術を受けて治療する人数は少なくなっています。
当院を受診する方の年齢層
開院から約半年間、当院にて手術を受けられた方の年齢分布を調べると、平均62.1歳でした。厚生労働省のデータによる全国平均とほぼ一致していると言ってよいでしょう。
また今のところ最高齢は83歳の患者さまです。当院は日帰りの腹腔鏡手術を専門に行っていますが、70歳以上のご高齢の患者さまも多く来院されています。すでに仕事を辞められている方でも「数日入院して、自宅を離れるのは負担が大きい」と考えられるケースは多いため、手術前の検査で問題がない限りは日帰り手術を受けられるように体制を整えています。
※年齢別データを見るときの注意点
治療を受けた方の年齢分布は、中高年以降に多い傾向を知る手がかりになります。ただし、「何歳で手術を受けたか」と「何歳で発症したか」は同じではありません。年齢別の手術件数が多いことだけで、その年代の一人ひとりの発症確率を示すこともできません。
50歳を境に必ず発症するわけでも、若ければ起こらないわけでもありません。年齢は目安の一つとして捉え、症状があれば確認することが大切です。
仕事や生活の中で気づくサイン
立ったときや荷物を持ったときに足の付け根が膨らむ、夕方になると違和感が出る、横になると膨らみが小さくなるなどの変化があれば、診察時に伝えてください。
便秘や慢性的な咳など、腹部に繰り返し力がかかる状態も確認します。生活上の注意点は、鼠径ヘルニアと喫煙・生活習慣をご覧ください。
痛みが少なくても、一度は受診を
膨らみが消えたり痛みが弱かったりしても、治ったとは限りません。成人の鼠径ヘルニアを根本的に治す方法は手術ですが、治療時期は症状、持病、仕事などを踏まえて相談します。
戻らない膨らみや強い痛み、嘔吐がある場合は、早急に医療機関へ連絡してください。
70代・80代の方は、年齢だけで治療を諦めない
手術の適応は年齢だけで決まりません。持病や服薬、体力、生活環境などを確認し、日帰りと入院のどちらが適するかを判断します。
ご高齢の方の治療については、70代・80代の鼠径ヘルニア手術と日帰り手術の考え方で詳しく解説しています。
この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。