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鼠径ヘルニア手術は安全or危険?~全身麻酔の安全性について~
2025.08.06
こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。
私は麻酔科医として、これまで5,000件を超える手術の麻酔を担当してきました。
日々の診療や手術相談の中で、患者さんから「全身麻酔って安全なんですか?」とご質問をいただく機会がよくあります。
特に鼠径ヘルニアの手術を受けるにあたり、麻酔について不安を感じるのは当然のことだと思います。
今日は、麻酔科医である私の視点から、全身麻酔、特に鼠径ヘルニア日帰り手術における麻酔の安全性について、詳しくお話しさせていただこうと思います。
まず、結論から申し上げますと、全身麻酔は、現在の医療においては非常に安全性の高い医療行為と言えます。
麻酔の事故率は、かつてに比べて格段に低くなっています。
飛行機事故よりも安全だという比較を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これは、医療技術や麻酔薬が日々進歩し、より安全で効果の高いお薬が数多く開発されていることによるものです。
私たち麻酔科医の仕事は、単に患者さんを「寝かしたり、起こしたりする人」と思われがちですが、それだけではありません。
鼠径ヘルニア手術の前には、患者さんの全身状態を詳しく評価し、安全に手術が可能か、どのような麻酔法が良いかを検討してプランを立てます。
手術中は、麻酔薬を用いて患者さんを眠らせますが、これは普段の眠りとは違い、「人工的に作り出した昏睡状態」です。
痛みなどの刺激に全く反応しなくなる代わりに、ご自身で呼吸をしたり、血圧を一定に保ったりすることが難しくなるため、私たちが代わりにそれらをコントロールします。
具体的には、気道を確保して人工呼吸器につないだり、血圧を適切に保つために昇圧剤や降圧剤などのお薬を使ったりします。
手術中、麻酔薬は患者さんの体内に継続して投与されています。
鼠径ヘルニア手術が終わり、患者さんが安全に目覚められるよう準備をする際も、麻酔科医の重要な役割があります。
痛み止めや吐き気止めのお薬を入れたり、手術中に使った麻酔薬などの効果を打ち消す拮抗薬(リバース)と呼ばれるお薬を使ったりするケースがあります。
鎮静や鎮痛のために使ったお薬には、このようなリバース薬が存在します。
鎮痛のためのお薬の中には、体内の酵素で短時間(例えば5分ほど)で分解されるものもあり、これを使うと手術後数分で体の中から薬がほとんどなくなり、まるで「溶ける」ようなイメージで、ゆっくりと腎臓などで体外へ排出されていきます(これは約10年前と比較しても大きく改善しています)。
手術直後の覚醒した際には、バイタルサイン(血圧や脈拍など)が安定しているか、意識がはっきりしているか、そして痛みや吐き気がないかを注意深く評価し、必要があれば適切なお薬を投与して対応します。
全身麻酔後、少しふらつく感じがすることがあっても、それは麻酔からの「寝起き」でふらついている感覚に近いものですのでご安心ください。
多くの場合、1時間ほど安静にしていただければシャキッと歩けるようになります(ご高齢の方でも、1時間半ほど休めば大丈夫な方がほとんどです)。
術後の不快な症状として、吐き気をご心配される方もいらっしゃいます。
乗り物酔いをしやすい方などは、術後に吐き気が出やすい傾向があります。
一般的に全身麻酔後の吐き気は3人に1人程度と言われることがありますが、当院では、吐き気止めを2種類使用するなど工夫をしており、吐き気の発生は数%にとどまっています(これは使用する麻酔薬の種類にもよりますが、当院で行っている静脈麻酔は、他の麻酔方法に比べて吐き気が起きにくいという利点もあります)。
私たちは、患者さんが術後も快適に過ごせるよう、痛みのコントロールはもちろん、吐き気に対しても細心の注意を払っています。
今後も、麻酔科医の専門知識と技術をもって、患者さんが安心して鼠径ヘルニア手術を受けていただけるよう努めてまいります。
鼠径ヘルニアの手術における麻酔の安全性について、この記事が皆様の不安を少しでも和らげ、理解を深める一助となれば幸いです。
何かご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。