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鼠径ヘルニア慢性疼痛とは?術後の痛みが不安な方へ
2026.03.17
こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。
鼠径ヘルニアの手術を検討されている方から、「術後の痛みはどれくらい続きますか?」「ネットで見た"慢性疼痛"が心配です」といったご質問をいただくことがあります。
今回は、術後の痛みに関する正しい知識と、当院がリスク軽減のために行っている取り組みについてお伝えします。
※当院では他院での術後の鼠径ヘルニア慢性疼痛の治療は行っていません。ペインクリニック医や精神科医、看護師、薬剤師などがチームで治療にあたる「痛みセンター」などの専門施設にご相談ください。

術後3ヶ月以上続く痛みは「慢性疼痛」として専門的な対応が必要です
まず知っておいていただきたいのは、手術後の痛みには2つの種類があるということです。
通常の術後痛(急性痛)は、体が回復する過程で生じる自然な反応です。多くの場合、数週間で徐々に和らいでいきます。
一方、術後3ヶ月を超えても日常生活に支障をきたす痛みが続く場合は、「鼠径部ヘルニア術後慢性疼痛(CPIP:Chronic Postoperative Inguinal Pain)」として、専門的な診断と治療が必要になります。これは世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)でも独立した疾患として認められており、適切な措置によって改善が期待できます。
慢性疼痛はなぜ起こるのか
CPIPの主な原因は、鼠径部を走行する神経(腸骨鼠径神経や腸骨下腹神経など)が、手術や術後の治癒過程で影響を受けることによる「神経因性疼痛」です。
具体的には、手術中の神経への接触や、術後に形成される瘢痕組織が神経を巻き込むことなどが原因として挙げられます。また、腹壁を補強するために使用するメッシュ(人工補強材)が神経に触れることで炎症が生じるケースも報告されています。
こうしたメカニズムが解明されてきたことで、現在では手術手技の工夫によってリスクを軽減できることがわかっています。
当院が慢性疼痛リスク軽減のために行っていること
当院では、術後の慢性疼痛リスクを最小限に抑えるため、以下の取り組みを行っています。
腹腔鏡手術による精密なアプローチ
腹腔鏡手術では、高解像度のカメラで術野を拡大しながら手術を行うため、神経や血管の位置を正確に確認できます。これにより、重要な組織を傷つけるリスクを抑えた丁寧な手術が可能です。
神経を保護する「被覆筋膜」の温存
近年の研究で、神経を覆う「Investing fascia(被覆筋膜)」という薄い膜を温存することが、慢性疼痛の予防に重要であることがわかっています。当院では、この膜をできる限り温存し、メッシュが神経に直接触れないよう配慮しています。
患者さん一人ひとりに合わせた術式選択
鼠径ヘルニアの状態や患者さんの体の状況は一人ひとり異なります。当院では、術前の診察で丁寧に状態を評価し、最適な術式を選択しています。
慢性疼痛の症状と診断
CPIPの症状は、手術した鼠径部の痛みだけとは限りません。以下のような症状が術後3ヶ月以上続く場合は、主治医にご相談ください。
- 鼠径部や下腹部の痛み(動作時・安静時)
- 手術した側の太ももの痛みやしびれ感
- 手術した側の臀部(おしり)の痛みやしびれ感
- 睾丸の痛み
- 性交時の痛み
- 頻尿や排尿時の違和感
これらの症状は外見上わかりにくく、検査でも異常が見つかりにくいことがあります。「気のせいかもしれない」と思わず、症状を具体的に医師に伝えることが、適切な診断への第一歩です。
手術を検討されている方へ
術後の慢性疼痛について情報を目にすると、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、慢性疼痛のメカニズムが解明されてきた現在、手術手技の工夫によってリスクは軽減できます。
※当院では他院での術後の鼠径ヘルニア慢性疼痛の治療は行っていません。ペインクリニック医や精神科医、看護師、薬剤師などがチームで治療にあたる「痛みセンター」などの専門施設にご相談ください。
Q&A
Q. 術後どれくらい痛みが続いたら相談すべきですか?
A. 術後の痛みは通常、数週間で徐々に和らいでいきます。3ヶ月を過ぎても日常生活に支障をきたす痛みが続く場合は、慢性疼痛(CPIP)の可能性がありますので、手術を受けた医療機関にご相談ください。
Q. 慢性疼痛になったら治らないのですか?
A. いいえ、適切な診断と治療によって改善が期待できます。内服治療から神経ブロック、必要に応じた外科的治療まで、段階的な治療法が確立されています。
Q. 腹腔鏡手術と開腹手術、どちらが慢性疼痛になりにくいですか?
A. 一概にどちらが優れているとは言えません。重要なのは術式そのものよりも、神経を丁寧に扱い、被覆筋膜を温存するといった手術手技の質です。当院では、腹腔鏡手術の利点を活かしながら、慢性疼痛リスクを抑える手術を心がけています。
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参考文献)
・鼠径ヘルニア術後難治性慢性疼痛に対する鏡視下再手術の工夫 (臨床雑誌外科 82巻2号)
・AEGIS-Women イベントご報告(第83回日本臨床外科学会総会) 「若手医師のための鼠径部ヘルニア 1
• アルゴリズムを用いた成人鼠径ヘルニア術後難治性慢性疼痛に対する治療介入とその成績
• 慢性疼痛とは|鼠径ヘルニアの合併症を解説!
・痛みセンター | 診療科・部門 | 日本大学医学部附属板橋病院:Nihon University Itabashi Hospital
• 鼠径ヘルニア手術後の生活はどう変わる?仕事・運動・日常動作の注意点を解説!
• 鼠径部ヘルニア術後に 痛みがとれずに困っていませんか - Medtronic
この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。