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日本の鼠径ヘルニア日帰り手術はわずか5%?
こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニック院長の菅間(かんま)です。
日本の外科技術は世界屈指と言われています。しかし、その提供体制に目を向けると、驚くほど国際標準から取り残されている現実に直面します。

2022年のNCD(National Clinical Database)データによれば、日本における鼠径ヘルニアの日帰り手術実施率は、わずか5.1%に過ぎません。
これに対し、米国では約80%、英国でも約77.8%に達しています。
この「15倍以上の開き」は、単なる文化の違いではなく、日本の医療提供システムがいかに非効率な旧態依然としたままであるかを示しています。
優れた技術を持ちながら、なぜ仕組みだけがこれほど遅れているのか。
そこには、患者さんのQOL(生活の質)よりも病院の都合を優先せざるを得ない、日本の医療界が抱える構造的な歪みがあるのです。
なぜ日本は「入院」が前提なのか?
日本で日帰り手術が普及しない背景には、医療機関と患者様の双方にとって「入院したほうが経済的に有利」に見えてしまう、皮肉な逆インセンティブが存在します。
まず、医療機関側の視点です。現在の診療報酬制度(DPC制度など)では、入院を選択したほうが病院の収益が上がる仕組みになっています。
つまり、効率化を進めて患者さんを早く帰すほど、病院が経済的に損をするという歪んだ状況が生まれているのです。
一方、患者様の側にも「高額療養費制度」という壁があります。窓口での自己負担額に上限があるため、日帰りでも数日の入院でも、支払う金額に大きな差が出ません。むしろ民間保険の「入院給付金」を受け取るために、医学的には不要な入院を希望するケースさえあります。
しかし、こうした「不必要な入院」が重なった結果、年間で約88億円もの公的医療費が余分に費やされています。これは私たちが納めている大切な保険料の浪費であり、医療システムの持続可能性を脅かす深刻な問題です。本来、医療の選択は経済性ではなく、「心身への負担」を最優先に考えるべきではないでしょうか。
ご高齢の方にこそ「日帰り」をオススメします
私は、これまで5,000件以上の麻酔管理に携わってきた専門医として、特に65歳以上の患者様にこそ日帰り手術をお勧めしています。
住み慣れた家庭から隔離される入院生活は、想像以上に心身へ負担をかけます。
不慣れな病院環境は、一時的な錯乱状態である「せん妄」や認知機能の低下を招く引き金になりやすく、わずか数日の入院で「日常の散歩」や「家族との団らん」といった当たり前の生活が一気に損なわれてしまうリスクがあるのです。
夕食を自宅で家族と囲み、自分の布団で休むこと。それこそが、何よりの回復の助けとなります。
当院は、日帰り手術専門の鼠径ヘルニア手術クリニックです。
手術後1時間から1時間半後にはご自身の足で歩いて帰宅することが可能です。日帰り手術は「簡略化」ではなく、高度な専門技術によってのみ実現する、患者本位の質の高い医療なのです。
これからの医療は、「手術だから入院させられる」という受動的な姿勢から、自らの生活とQOLを守るために最適な形を主体的に選択する時代へと変わらなければなりません。
「病院のベッドを埋めるための慣習」に縛られる必要はありません。人生の貴重な時間を、白い天井を見つめて過ごす数日間に費やすのではなく、一日も早く住み慣れた我が家での日常を取り戻していただきたい。
私たち専門クリニックは、患者様の不安に寄り添い、安全でスムーズな社会復帰を支えるパートナーでありたいと考えています。ご自身の大切な生活を守るために、ぜひ「日帰り手術」という前向きな選択肢を検討してみてください。
【主な参考データ出典】
高額療養費制度・入院給付金制度 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 → https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。