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鼠径ヘルニアを放置すると腹腔鏡の日帰り手術を受けられなくなる可能性がある
こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニックの菅間(かんま)です。
今日は鼠径ヘルニアが放置されがちな病気であることと、放置し続けるリスクについて説明します。足の付け根にふくらみができるなど、本来、鼠径ヘルニアは患者さん自身で気が付きやすい疾患です。それでも、なぜ放置されてしまうのかを考えるとともに、早めに医療機関を受診することが大切であることをお話ししたいと思います。
鼠径ヘルニアを放置するリスク
鼠径ヘルニア(脱腸)の大きな特徴は、ご自身で太ももの付け根(鼠径部)の違和感に気づけることです。
ふくらみの大きさに個人差はあっても初期から痛みを感じるケースは少なく、手で押し込むとふくらみは、お腹の中に引っ込んで見えなくなります。身体を横にしても同様です。
しかし、ふくらみがなくなったかのように見えるのは一時的なもので、そのままで治るわけではありません。お腹の中には、皮膚の下まで内部の腸管などが飛び出す穴の開いた状態になっています。この穴は自然にふさがることはなく、内部におさまった腸管や脂肪組織はその後もたびたび飛び出してきます。
嵌頓(かんとん)によって緊急手術が必要になる恐れ
痛みがないからといって、鼠径ヘルニアを放置し続けるのは危険です。ふくらみのサイズが少しずつ大きくなり、腸が穴にはまり込んで、戻らなくなってしまう恐れがあります。飛び出した腸管が絞め付けられ、血流障害を起こす嵌頓(かんとん)状態と呼ばれ、激しい痛みが生じるとともに生命にも危険のある状態です。
嵌頓を起こすと、ただちに緊急手術が必要となる場合も少なくありません。鼠径ヘルニアの治療では、嵌頓を予防することもポイントとなります。鼠径ヘルニアの治療方法は手術のみであり、早期発見と早期治療が大切です。
それでも鼠径ヘルニアは放置されやすい
鼠径ヘルニアは放置されやすい疾患です。原因として、痛みを感じないケースが多いこと、また患部がデリケートな部位であることも影響していると考えられます。実際に、自覚症状が出てから受診するまで時間のかかった患者さんからは「恥ずかしくて、受診しにくかった」という声もお聞きします。
また手術となると「長期間仕事を休まなければならない」と誤解している方も多いようですが、鼠径ヘルニアのほとんどの患者さんは、日帰り手術が適応できます。
ただし鼠径ヘルニアは誰でも発症する可能性があり、決して恥ずかしい病気ではないことをご理解いただきたいと思います。手術後に「もっと早く受診すればよかった」と言われるケースも少なくありません。
腹腔鏡手術のメリット
鼠径ヘルニアの手術は大きく分けて、
- 鼠径部切開法
- 腹腔鏡手術
このいずれかで行われます。
鼠径部切開法は、足の付け根部分の皮膚を5~6cm程度切り、ヘルニアを外側からメッシュで補強する方法です。これに対し当院で行う腹腔鏡手術(TAPP法)では、お腹の中央と左右に合計で3か所、5mm~1cm程度の穴を作ります。腹腔鏡を使って内部からヘルニアの部分をメッシュでふさぐ手術方法です。
新しい治療法ですが、腹腔鏡手術の方が年間の手術件数が多い主流の手術方法と言えます。
腹腔鏡手術のメリットは、キズが小さいため術後の回復が早い点、患者さんの身体にかかる負担が少ない点です。
鼠径ヘルニアの放置が腹腔鏡手術に与える影響
優れた手術方法である腹腔鏡手術ですが、誰もが受けられるわけではありません。既往症や合併症がある場合など、入院が必要となるケースもあります。こうした方が当院を受診された際は、入院設備の整った医療機関をご紹介します。
日帰り手術の可否は、医師の診察で総合的に判断しますが、上述の嵌頓を起こすと緊急手術が必要となる場合もあります。特に緊急性の高い状態では、開腹手術への切り替えを行う可能性もあるでしょう。
日帰りで腹腔鏡手術を受けられたはずの方でも、鼠径ヘルニアを放置して緊急手術が必要な事態になれば命を危険にさらすだけでなく日常生活への復帰にも時間がかかってしまいます。「仕事を休むのが大変だから」という理由で治療が遅れて、結局入院期間が長引くようでは本末転倒です。
腹腔鏡手術という選択肢を狭めないためにも、自覚症状がある方は早めの受診をおすすめします。
鼠径ヘルニアの放置に関するQ&A
鼠径ヘルニアの放置に関して、患者さんから多く寄せられる質問に対して回答します。
Q. 鼠径ヘルニアは放置しても回復しませんか?
一度発症した鼠径ヘルニアが自然に回復することはありません。根本的な治療には手術が必要です。放置し続けると、ふくらみが大きくなったり、痛みがあらわれたりする場合があります。
Q. 鼠径ヘルニアを放置するリスクとは?
鼠径ヘルニアが嵌頓を起こしかねないことです。腸管が飛び出した状態で穴にはまり込み、絞め付けられると、血流障害を起こします。激痛をともなうとともに生命にも危険がおよびかねず、緊急手術が必要な場合が多くあります。
Q. 腹腔鏡手術が受けられないケースはありますか?
腹部の開腹手術歴や前立腺手術の既往、このほか糖尿病や心臓疾患が重度な場合など、リスクが高く腹腔鏡手術を受けられないと医師が判断するケースがあります。当院ではこうした患者さんが受診された場合は、入院設備の整った医療機関をご紹介しますのでご安心ください。
この記事の著者
菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。