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なぜ日本の病院はいつも満床なのか〜知られざる入院医療の実態~
2026.04.10

こんにちは。調布駅前そけいヘルニアクリニック院長の菅間です。
「手術が必要と言われたのに、すぐ入院できない」「救急車で運ばれたのにベッドが空いていない」そんな経験や話を聞いたことはありませんか?
実は日本は、人口1,000人あたりの病床数が約12.6床(Statista、2022年)と、世界でもトップクラスです。アメリカのわずか2.8床と比べれば、その差は歴然です。ベッドの数だけ見れば、世界一の「病院大国」のはずです。
それなのに、なぜ「ベッドが足りない」と言われるのでしょうか。
ベッドは多いのに、なかなか空かない
答えはシンプルです。一人ひとりの入院期間が、他の国と比べて極端に長いからです。
厚生労働省の病院報告によれば、日本の一般病床(急性期)の平均在院日数は約16日。精神科や長期療養を含む全病床で見ると、OECDの2022年データでは27日超にのぼります。一方、欧州25カ国の平均は2019年時点で7.24日(Springer Nature、2024年)。古いOECDデータ(Health Data 2005)でも、イギリス約7.6日、アメリカ約6.5日という水準です。
ベッドの数がいくら多くても、一人が長く使い続ければ当然空きません。「満床」の正体は、病床不足ではなく在院日数の長さなのです。
「長く入院させると病院が儲かる」仕組み
では、なぜ日本はこれほど在院日数が長いのか。
大きな原因のひとつは診療報酬制度の設計にあります。以前の制度では「4泊5日までの入院」をまとめて評価する仕組みがあり、事実上「4〜5日入院させることが最も収益性が高い」状態になっていました。
患者さん側にも「入院を選ばされる」流れが
患者さん側にも似た構造があります。高額療養費制度のおかげで窓口負担の差はわずか。それどころか民間保険の「入院給付金」があるため、入院した方が経済的に得になるケースさえあります。
その結果、医学的には不要な入院が積み重なり、鼠径ヘルニア手術の日帰り率を80%に引き上げるだけで年間約88億円の公的医療費が削減できると試算されています(当院元資料・NCD年報2022年データをもとに算出)。皆さんが納めている保険料の話です。
入院には、見えにくいリスクがあります
「手術後はゆっくり入院して回復した方が安心」と思われるかもしれません。しかし、入院そのものが引き起こすリスクがあることはあまり知られていません。
ベッドで安静にしている時間が長いほど、足の静脈に血栓ができやすくなります(深部静脈血栓症)。また院内感染のリスクも、在院日数が長くなるほど高まることが医学的に知られています。特にご高齢の方は、慣れない病院環境で「せん妄」(一時的な混乱状態)や認知機能の低下を起こすリスクがあります。これは医学的に認められた現象であり、決してまれなことではありません。
日本の在院日数が長いほど患者さんへの負担が増すという事実は、PubMedに掲載された日本・カナダの比較研究でも、患者の年齢・併存疾患・退院計画などを統計的に調整したうえでも、日本の在院日数はカナダより有意に長い PubMedと報告されています。
「早く帰れる手術」が、本当の意味で安全な時代へ
2022年のNCD(National Clinical Database)データによれば、日本における鼠径ヘルニアの日帰り手術実施率はわずか5.1%。米国約80%、英国約77.8%と比べると、15倍以上の差があります。
当院では、手術後1〜1時間半でご自身の足で歩いてご帰宅いただける日帰り手術を行っています。その日の夜は、住み慣れたご自宅で、いつもの布団に入り、ご家族と食卓を囲むことができます。
「手術=数日間の入院」という思い込みは、制度がつくり出した慣習かもしれません。ご不安なことはどうぞ遠慮なくご相談ください。
この記事の著者

菅間 剛(かんま たけし)
2007年、慶応義塾大学医学部卒業。横浜市立市民病院、練馬総合病院、千葉西総合病院、東京医科歯科大学医学部医歯学総合研究科、世田谷北部病院などの麻酔科に勤務し、5000件を超える手術麻酔を担当。2023年、調布駅前そけいヘルニアクリニック開院。
東京都調布市出身で、父も調布市内で「菅間医院」の院長をつとめる。